【マンスリーレポート】マーケットの振り返りと見通し(2023年3月号)

株式・金融

Monthly 3月号

米利上げ、日銀新体制、そしてJTC

2月に入り、米金融政策に対する市場の見方が大きく変わった。政策金利がピークに達する時期は6月から9月へと後ずれし、ターミナルレート(利上げ最終レート)も約4.9%から5.4%程度まで上昇した。その結果ドル高円安で1ドル140円説台頭。

ドルの戻りと植田新総裁発言

昨年10月以降ドル安で推移していたが、2月になってドルが下げ幅の約3割を戻してきた。これは米国のインフレが改めて意識された結果だ。2月14日に発表された1月のCPI(消費者物価指数)は前年比の伸びこそ6.4%増と前月の6.5%増から縮小したが、エネルギーの伸びは前年比プラス8.7%と前月の7.3%増から拡大に転じている。

エネルギーを除くサービスの伸びも拡大し、CPI全体の約34%を占める住居費の伸びも7.9%と前月の7.4%増からさらに拡大している。

また、FRB(米連邦準備理事会)が重視するPCE(個人消費支出)物価指数に至っては、総合とコアの伸びが前年比でそれぞれ5.4%増、4.7%増とどちらも前月より0.1%ずつ拡大している。

そして、2月24日、為替市場が最も注目していた日銀総裁候補の植田和男氏の所信聴取が行われた。同氏は「現在、日銀が行っている金融政策は適切」「金融緩和を継続し、経済をしっかりと支える」と語り、現状の政策の大枠を継続する旨を述べた。その一方で「副作用などの無理が少ない形を考えて緩和の継続を図ることになる」とも発言して、今の金融政策をまったく変えなくてよいわけでもないという意図をにじませた。

金融市場では一定の安心感が広がり、この日株高・債券高が進んだ。「現在の日銀の金融緩和は適切」と述べたことで、早急な大幅政策変更の可能性は低いとの見方が広がったようだ。ただ、YCC(イールド・カーブ・コントロール)政策について将来的な見直しに含みを残したことで、相場は上昇一服となっている。

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YCCの修正時期

2022年12月に日銀は政策修正を行い、YCC下での10年物国債金利の許容変動幅をプラスマイナス0.25%から同0.5%に引き上げた。新総裁のもとでいつ、YCCについてどのような手を打つかが大きな注目点となっている。

市場が注目しているのは、4月27日~28日に開催される日銀政策決定会合だ。この会合は植田新体制のスタートだが、パリバの河野エコノミストは、植田新体制がスタートする前の3月9~10日の金融政策決定会合で、黒田総裁の下で日銀は10年国債金利のレンジを一気に1%まで拡大するという見解を発表している。理由はこうだ。

もし黒田体制下で最後となる3月の金融政策決定会合で日銀が何も動かなければ、植田新体制は早期のレンジ拡大を予想する国際投資家から大量の長期国債の売りを浴びせられる可能性がある。国際投資家のみならず、大量の国債を保有する国内投資家勢もポジション調整からやむをえず国債を売却せざるをえず、日銀が防戦一色となってしまうからだ。

しかし、仮にYCC(イールドカーブコントロール)を撤廃したとしても、“自然体”での日本の10年国債利回りの理論的な水準は0.9~1.0%との試算もあり、2%や3%になるわけではない。

もちろん、短期的には国債の投機的な売りが膨れ上がり、一時的に長期国債利回りが跳ね上がる展開は否定できない。それでも、これから米景気悪化によって同国の長期国債利回りが低下し、ドルが対円で下落すれば、それも日本の長期金利を抑制する方向で働くだろう。

ごくごく短期的な売買を行うならともかく、中長期的な投資においては日銀の政策動向に過敏になるべきではないと思っている。

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国内機関投資家の円買いと米景気後退を示唆する逆イールド

 また、3月の決算前に日本の機関投資家は外債を売り円に転換するため、円買いが入るためか、IMM通貨先物でも円の売りポジションは縮小している。日銀がYCCに手を付けなかったとしても、短期的には円安にはなりにくいはずだ。昨年のような円安のトレンドにはなりにくく、140円超えを見込む市場の見方に対し、おそらく1ドル140円の手前が今回の円安の目安としたい。日本側から見た場合は140円手前で円安を止まるだろうが、米国側の事情を見た場合、

 米FRBは利上げ幅を前回の0.25%を0.5%に簡単には上げないと思っている。金融政策の変更が実体経済に影響を及ぼすまでにはタイムラグ(時間差)がある。過去に実施した利上げの効果が今後、累積的に出てくることを、FOMC参加者の多くはわかっていると推測される。

0.25%幅の小刻みな利上げを、必要が生じたと判断すれば追加しつつも、景気・物価状況に大きな変化が急に生じることはないのかを、日々慎重に探っていく構えだろう。

また、米国債のイールドカーブで、2年債と10年債といった代表的な組み合わせの利回り格差が、引き続き大幅な逆イールドになっている。2月27日現在で2年債が4.79%、10年債は3.92%、いわゆる逆イールドの状態が続いているのだ。

この逆イールドが何を示しているのかに関しては議論もあるわけが、人によって程度の差はあるにせよ、FRBによる利上げの上積みが先行きの米国の景気・物価を一層押し下げてオーバーキルになってしまう景気後退のリスクがあると、債券市場が認識していることは間違いあるまい。つまり金利低下とドル安を予想する。

 日銀新総裁の植田氏は、現在の日銀政策を継続していくつもりだが、前述したようにYCC、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)に関しては問題意識を有しているようである。所信聴取での発言では、長期金利ターゲット設定年限の短期化というオプションへの言及もあった。  

仮に短期化されて現状の10年債の指し値オペがなくなる場合、同債利回りは0.8~1.0%前後に上昇すると見込まれており、為替市場では円買い材料に十分なり得る。

日本側の経済統計では、1月の貿易統計で輸出入差額が3.5兆円近い過去最大幅の赤字になり、2月の円売り材料になった。もっとも、1月の貿易統計には、中国を含む中華圏の春節(旧正月)が今年はカレンダー上で1月下旬という早いタイミングだったことが影響し、中国向けの輸出の落ち込みが大きくなったという特殊要因がある。2月分ではその反動が出てくる可能性が高い。

むろん、世界経済の減速や、半導体などの供給制約の残存ゆえに、日本からの輸出が当面伸び悩むことは避けられそうにない。とはいえ、FRBや欧州中銀(ECB)の利上げ観測の根底にある欧米の景気の想定以上の底堅さは、日本の輸出セクターにとっては朗報である。

以上のように考えると、0.25%ずつの「延長戦」的な米国の利上げ継続があっても、ドルが買い戻される幅は限定的だという結論になる。1ドル140円は近いように見えても、案外に遠いのではないか。

米株は逆業績相場局面にある

株式相場の局面には4つのパターンがある。金融相場、業績相場、そして金利が上昇し、逆金融相場、中間反騰を経て逆業績相場となる。米株は昨年末までの下押し、そして1月の戻りは単なる反動にすぎなかったと位置づけるべきだろう。昨年まではインフレ懸念が台頭し、長短金利がどんどん上昇するとの不安が市場を支配していた。そのため、「逆金融相場」(長短金利上昇による株価下落)の様相が濃かった。これがいったんの株価の戻りを経たあと、2023年は次第に景気や企業業績の悪化が鮮明になっていき、「逆業績相場」(企業収益の減益による株価下落)に移行するだろう、という見解である。どちらにせよ、株価下落圧力となるので、米株が最近調整色を強めているのは当然だと考えられる。

逆業績相場を確信するデータが2月24日に発表された。リフィニティブIBESのデータによると、米S&P500株価指数採用企業の2022年第4・四半期利益は前年同期比3.2%減少する見通しだ。エネルギーセクターを除くと、同7.4%の減少が見込まれている。

23年第1・四半期の1株利益については、悪化もしくは市場見通しを下回ると予測している企業は65社。改善もしくは市場見通しを上回る予測を出した企業は17社。悪化を改善で割ったネガティブ/ポジティブレシオ(65/17)は3.8。ちなみにS&P500社の今後4四半期(23年第1─第4・四半期)のPER(予想株価収益率)は18.1倍(TOPIXは13.98倍)。この数字を見る限りでは米株は逆業績相場のさ中にいるといえる。

逆業績相場の次のステップは、金融相場になる。金融相場とは、不景気で企業業績が悪化すると株価は下がるため、政府は景気と株価を刺激するために景気対策等を講じ、中央銀行は政策金利を下げるなどの金融緩和を行う。そうすることで、市中に流通する資金量を増やして金余り状態を作る、「不景気の株高」の局面をいう。

つまり2月になって、前述したように米経済指標の上昇でインフレの強固さを認識し、金利上昇を促し、米株は逆金融相場から逆業績相場にバトンタッチする形で、株価が押し下げられている。金融相場に移行するには、まだまだ景気悪化を織り込み必要がある。

日本株の先行きはどうだろうか。日経平均株価を見ると、1月24日に2万7000円台に跳ね上がったあと、「上値は重い」などと言われながら、一時は2万7900円に迫った局面もあった。逆に、下押ししても2万7000円を割れていない(2月28日現在)。かなり堅調な株価推移だといえる。

その背景要因としては、日本発の悪材料が少ない(悪材料は海外経済の悪化など、国外発)という点も指摘できるが、これまで述べてきたような、米市場の相場つきにもあると考える。

米市場では金利上昇懸念による逆金融相場の色合いが濃く残っており、そのため米株価は下落色を示している(日本株にとっての悪材料だ)。だが、今のところは米金利先高観がドル高円安を生じて日本の輸出企業の収益の下支えになるとの期待が広がっており、日本株が崩れにくいのではないだろうか。

JTCと日本企業のPBR 1倍割れ

昨年年末ころから欧州株が米株をアウトパフォーマしていた。天然ガス価格のピークアウト感や温暖な天候予報などで金利の高止まりから利下げへの転換が米国より早まるという観測を根底に欧州株高が進んだ。そして、今後は欧州株の次は日本株との声が聞かれ始めた。その理由として、コロナ規制緩和によるインバウンド(外国人が日本に観光に来ること)の復活、賃上げ気運の高まり、そして日本株のターニングポイントになるのではと言われているのが「JTC」だ。

JTCとは「ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー」のことだ。今この言葉がネットでよく使われていると聞いている。つまり日本の伝統的な大企業に共通する内向きで硬直的な組織運営や企業文化を皮肉るときに使われるそうだ。

日本市場には明確なテーマが現れた。「上場企業の低PBR(株価純資産倍率)問題の解決」だ。昨年以降、東証は企業に対して資本コストを意識した経営をするように促す方針を打ち出しているが、この春以降はこの取り組みが本格化する見通しだ。

PBRは株価が資産の何倍まで評価されているかを表す指標であり、これが1倍未満なら株価が解散価値を下回り、企業が資産を効率よく使えていないことを示す。

現在の東証プライム市場の平均PBRは約1.17倍であり、構成銘柄数1835社のうち1倍割れ銘柄は半数近くにのぼる。PBRは企業評価のファンダメンタルズの1つとして昔から使われてきたが、即効性のある指標ではなかった。だが、過去のインフレ相場のときには強く意識されており、今回のインフレ相場の始まりを感じたか、昨年からはとくに注目度が増している。

PBRを上げるには、ROE(自己資本利益率)を上げる、あるいは増配や自社株買い・消却を執行することに尽きるが、今の市場にとっては即効性のある大きな期待材料だ。現在、銀行株が水準訂正しているのはその代表例といえる。ちなみに日本を代表するトヨタ自動車は2月27日現在でPBR0.92倍だ。PBRは一般投資家にもわかりやすい指標なので、人気化しやすいのではないだろうか。

2月28日の日経新聞の証券欄コラム「スクランブル」で、PBR1倍割れとそれを狙うアクティビスト(物言う投資家)の活動を伝えている。1倍割れ企業は東証からも圧力を受け改善策を講じなければならない。PBR は株価÷1株純資産だ。1倍以上にするためには、純資産を減少させなければならない。PBR1倍ということは、会社が解散することになって、会社の持っている資産を全部売却して、それを株主の持ち分に応じて返却するとしたら、投資金額がそっくりそのまま戻ってくる株価水準のことだ。

かつて、PBR1倍割れ企業は「割安銘柄」と言われた。その後、「魅力のない割安株」などとも言われてきたのだ。東証は2月15日の第8回フォローアップ会議で全社に資本コストや株価を意識した経営を要請しており、特に、PBR1倍割れ企業に改善策を求めている。PBR 1倍割れを回避するには、分母の1株純資産を減らすしかないのだ。つまり株主還元で配当を増やしたり、自社株買いを実行するしかないのだ。日本の大企業の組織力は侮れない。「JTC」の逆週が始まっている。日本株のPBR1倍割れ回避は市場のターニングポイントになるだろう。

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