Monthly 4月号
銀行破綻とその後
3月10日に起きた米国で第16位の中堅銀行「シリコンバレー銀行(以下、SVB)」の破綻から始まった金融機関の経営危機は、その後瞬く間に欧州にも飛び火し、世界的に金融不安が拡大してしまった。
リーマンショックを思い出す人も多い
今回の銀行破綻でリーマンショックを思い出した人は多い。リーマンショックは突然起きたわけではない。その前の年である2007年8月9日、仏大手金融機関のBNPパリバが同行のミューチュアル・ファンドの解約を凍結、このあたりから、すでに表面化していたサブプライムローン(低所得者向け住宅融資)問題は、さらに深刻度を増していった。
その際、株価が1~2週間下がったあと、すぐに戻したが、年が明けた2008年1月に再び株価が大きく下がり、3月には米証券大手のベア・スターンズが破綻した。当時のFRB(米連邦準備制度理事会)議長のベン・バーナンキ氏は、『これで最後』『この問題は終わり』と発言していたにもかかわらず、同年9月、リーマンショックにつながった。 その時と米国の大手金融機関を取り巻く状況や規制、今回破綻した銀行との規模に違いはあるが、今回の銀行破綻の一連の流れにデジャブ(既視感)を感じる人も多い。
このように金融関係の不安は「終わり」まで時間がかかることもあれば、疑惑だけで消えてしまうこともある。また、今回のクレディ・スイスだけでなく、ドイツ銀行の経営不安などのように、実は10年以上前からついたり消えたりしている例もあるのだ。
SVB破綻と米国債逆イールド
今回のSVB破綻は「利上げの威力」と「杜撰な銀行監督」が重なった結果と映る。米国の基礎的経済指標が際立った失速を見せないため、昨年3月からの「利上げの威力」を感じながら、SVB破綻直前までは「0.25%から0.50%への利上げ加速の可否」が市場の最大の関心事だったのだ。しかし、一方では、金利市場で長短金利差の逆転(逆イールド)の大きさが日々話題となっていた。
一般論として、銀行は短期資金で調達して、これを貸し出しや有価証券投資といった長期運用に回すことで長短金利差を稼ぐことを基本的なビジネスモデルとしている。通常、債券の利回りは年限が長くなるほど返済リスク等を踏まえて金利は高くなる。将来の経済や物価が不確実で見通せない分、投資家は高い利回りを求める。そのため1年債よりも3年債、3年債よりも10年債、10年債よりも20年債の方が利回りは高くなるというのが当たり前なのだ。ところが、2年債の利回りが10年債の利回りを大きく上回る、などという考えられないことが今起きている。どうしてこのような現象が起きているのだろうか?
それは、短期金利は足元の金利政策の影響を受けやすく、長期金利は長期的な景気見通しの影響を受けやすいからだ。足元の金利政策とは、FRB(米連邦準備理事会)の政策金利のことである。米政策金利のことをフェデラルファンド(FF)金利という。FF金利は2022年3月にゼロ金利(0%~0.25%)解除後、ものすごい急ピッチで上昇し今年3月のFOMCでは4.75~5.00%になっている。実に1年間で4.75%も上昇しているのだ。
これに大きな影響を受けて短期金利が急騰した。一方、長期金利は今後の景気見通しの影響を受けるため「こんなに急速に金利が上がれば、インフレ懸念で景気は減速するだろう」との観測が強まり金利上昇が抑えられている。中長期的な景気減速と、それに伴う利下げを同時に織り込んでいるのだ。
短期金利が長期金利より高いことを逆イールドという。昨年4月、米2年債と10年債の利回りが逆転、逆イールドが発生した。現在米2年債の利回りは4%前後で推移しているが、銀行破綻直前の3月上旬には15年ぶりとなる5%台を付けていたのだ。現在10年債のそれは3.5%割れ、3月上旬では4%を若干下回っていた。2年債と10年債の利回り格差は現在0.5%程度だが、3月上旬のSVB破綻前にはそれが1%の差があったのだ。この逆イールドの常態化は、SVBに限らず銀行部門全体のビジネスモデルが根本的に窮屈になることを意味する。
というのも、SVBがスタートアップ企業から調達した預金はその特性上、とりわけ短期的な資金需要にさらされることが想像に難くない。また、個人ではなく企業からの預金であるため、流出時の速度・規模も速く・大きいものになる。結果、銀行負債側である預金は著しい減少にさらされる状況にあり、しかも利上げで預金の新規調達コストも上がっていた。
こうして負債側が溶けやすい状況にある一方、資産側では何が起こっていたか。SVBは預金で調達した資金を満期保有目的の有価証券へ投じ、金利上昇(=債券価格低下)ともない大きな含み損を抱え込む状況にあった。もちろん、満期まで持ち切れば含み損は関係がない。しかし、預金流出を受けてこれらの有価証券を満期まで持ち切ることはできず、売却を強いられてしまった。その含み損を埋めるための増資を試みたが失敗に終わった――というのが今回の危機の顛末である。
銀行破綻と国債バブルの崩壊
SVB破綻のニュースから3週間以上経過して、「世界金融システム危機だ」といった不安はかなり薄れてきた。現在金融システムは盤石ではないが、破綻はしないと思っている。なぜなら、2008年のリーマンショックのときに、欧米の金融システムは念入りな手当てを施した。「バーゼル3」(主要国の中央銀行監督局が加盟するバーゼル銀行監督委員会によって定められた規制強化策)によって、当時よりもはるかに金融危機のリスク耐性を高める対策が取られているからだ。
むしろ今回の問題点は、世界中の中央銀行は異常な金融緩和、それも量的緩和という実弾で国債などを買いまくる政策をとったから、リスク資産市場はすべてのものが値上がり(債券利回りは下がった)したからだ。そして、今度は、資源価格の急騰で世界中の中央銀行はインフレへの対応として、利上げと引き締めに走り、それらのリスク資産の急落が始まったからだ。
その中でも、もっとも直接的にバブルになっていた世界中の国債(なぜなら、中央銀行は直接買いまくったリスク資産であったからである)、とりわけ米国債の急落(金利急騰)が起きた。今回の銀行破綻で静かで確実な国債バブル崩壊が起きているのである。
クレディ・スイス破綻が資本市場にもたらす影響
クレディ・スイスの破綻では、違法的かどうかはともかく、リーマンショックと同じような過度のリスクテイク、杜撰な投資を行い、それらが積み重なって破綻危機となった。長い間、危ないと言われ続けていたため、今回クレディ・スイスが破綻しても、誰も驚かなかったのではないだろうか。皆が驚いたのは、スイス政府とスイス中央銀行が救済に全力で動いたことである。自業自得であって、政府が救済する理由はないはずだが、金融システム不安が欧州、世界に広がることを何がなんでも防止するために動いたということだ。
クレディ・スイス破綻では、株主価値はゼロにはならず、一定の価値を維持した(UBS株と株式交換となった)。それにもかかわらず、「AT1債」と呼ばれる劣後債は無価値となったのだ。この措置は、今後の金融システムの安定性に大きなリスクをもたらす。なぜなら、劣後債とはいえ、株式に劣後するというのは、債券と株式の関係の根本的な原則に反し、今後、株式より劣後する劣後債を引き受ける投資家はいなくなってしまうからだ。
つまり、劣後債による資金の調達は止まるだろうし、すでに社債市場全体の価格が下落している。なにより、金融システムの安定性がリスクにさらされたときに真っ先に必要になるのが、劣後債による資本増強だったはずだ。これが金融システムに対する不安が完全に払拭されるまで、つまり、当面は劣後債による資金調達不可能になってしまう。
となると、普通株式による増資しか手段はなく、不安が台頭している中で株式増資するとなると、大幅な株価下落や株式価値の希薄化を甘受して増資することになる。
すなわち、金融システム不安の状態では、いかなる資本増強も行えず、破綻が現実化した場合にしか資本増強は起きず、「金融システム破綻を座して待つしかない」ということになる。そうした事態をわかって実行したスイス当局が、株式価値を残したまま救済したのも、強引に即時救済を決めるのに、クレディ・スイスの株主が反対しないようにするためだろう。
すなわち、金融システム危機という状況は消えたわけでなく存在しているのだ。
中央銀行の逃げ道は利上げを止めること
ただし、中央銀行には、市中の金融機関と違って、1つだけ逃げ道がある。それは利上げを止めることである。利上げを止めれば、資産の時価の下落は止まる。また、金融機関に払う付利(短期金利の水準で金融機関の中央銀行への当座預金へ利子をつける)が少なくなる。
「では、そうすればいいではないか?」と思われるだろうが、そのツケは金融市場から実体経済に移される。インフレである。人々が持っている現金の価値が毀損する。預金資産が毀損する。生活が苦しくなる。そして今、こちらも現在進行形である。
すなわち、リーマンショック後、金融市場の壮大なるバブル崩壊のツケを先送りし、それを中央銀行に量的緩和という形で引き受けさせたツケが、中央銀行のバランスシートに溜まり、それと同時に、実体経済においてもインフレによって人々の資産が毀損し、生活が苦しくなっているのである。
米金融規制強化は90年代の日本の景色
では、これからどうなるのか?
米国のバイデン大統領やイエレン財務長官は、SVBとシグネチャー・バンクの預金全額保護において、税金はいっさい使わないと明言した。ということは、今後も税金は使えない。しかし、すべての金融危機は回避しないといけない。預金は全額守り、金融システム危機は起こさない。そのためには、カネをどこかから持ってこないといけない。カネの代わりとなる手段を講じないといけない。
それは、金融規制強化、監督強化、ということがまず1つだろう。となると、金融機関の融資姿勢はとことん厳しくなる。まさに日本が1990年代後半に見た景色だ。いわゆる住専問題が国会で無駄に紛糾したために、それ以後、本当に資金を入れなければいけない金融機関へ税金で資本注入できなかった。その間に、あれよ、あれよという間に債権は劣化し、金融システムは破綻寸前となった。
もちろん、これと同じことが起きないように欧米当局は全力で取り組むだろう。そのツケは、必要以上のクレジットクランチ(信用収縮)による不況と、それと同時に起きるインフレとなるだろう。
逆イールド発生から1~2年後に景気後退
これからの世界の株価を何が動かしているかといえば、米国の景気と企業収益の悪化だ。それは米国の株安とドル安をも引き起こし、日本を含むその他の主要国にも悪影響を与えることになる。
前述したように、米10年債利回りと米2年債利回りの差である長短金利差が昨年3月29日のザラ場で瞬間的に逆転する現象(逆イールド)が発生し、翌4月1日にはついに終値ベースでも逆イールドとなった。この逆イールドは米国の景気後退の予兆とも言われており、80年代以降の経験則では、逆イールドが発生した時点からおよそ1~2年後に景気後退を迎えている。逆イールドは今年の4月1日でちょうど1年になる。
では、70年代のスタグフレーション(インフレと景気後退が同時に起こること)前夜の状況はどうだったのだろうか。この時期のスタグフレーションに陥った米国の景気後退期は、1973年11月から1975年3月までの16ヶ月間だ。米10年国債利回りと米1年国債利回り(2年債はなかった)の逆イールド(終値ベース)が発生したタイミングは1973年3月30日だったので、約7ヵ月後に景気後退に入った計算になる。当時も逆イールドが景気後退のシグナルになっていたことが確認できる。
米ISM製造業景況感指数を確認すべき
だが、現在その割に株価の下値は限定的だ。これはFRB(米連邦準備制度)による利下げ観測などが支えになっているとみられる。また、3月入ってから相次ぐ銀行破綻に伴う金融市場の混乱もいったんは沈静化している。イエレン財務長官が「銀行預金の安全を確保するため、さらなる措置を講じる用意がある」という意思表示を繰り返していることが奏功した形だ。
ただし、企業業績(≒予想EPS)のさらなる低下には注意が必要だろう。米企業業績と一定の連動性を有する米ISM製造業景況指数は2月に47.7と4カ月連続で50を割り込んでおり、すでに生産活動の停滞を示す水準にある。
実は、この水準はリーマンショックの最悪期や新型コロナウイルスの感染爆発初期の混乱局面を除くと最も低い水準であるから、通常の景気循環パターンに従えばそろそろ下げ止まりが期待されるところだ。このレポートが出た直後の4月3日に発表される3月分は一段の低下が示唆されている。
国内では、欧米の金融不安がひとたび沈静化すれば、新しい日銀総裁の下で4─6月に向けて日本の金融政策正常化への期待も再浮上する可能性がある。その場合、短期勢による「日銀トレード」(日経平均売り、銀行株買い)の再挑戦と、長期投資家による「日本のデフレ体質脱却、長期株高ストーリー」が交錯する展開になるかもしれない。一方、新年度の会社予想は製造業景気の弱さと円高傾向により、急速に慎重化する可能性もある。この春は、業績悪化のなかで、「PBR1倍割れ回避」など日本の構造変化を「先物買い」できる眼力が問われることになりそうだ。
運用のご相談や何かお問い合わせがありましたら、お気軽にK&Cアセットマネジメント株式会社にご連絡ください。kc-asset-management@outlook.jp
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— ブルキング @株式系金融特化ブログ (@FreeeeSTYLEblog) March 4, 2023
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